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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1938号 判決 1976年3月29日

控訴人

野口保次

右訴訟代理人

増岡正三郎

外一名

被控訴人

株式会社中村屋

右代表者

浅田慶一郎

右訴訟代理人

森川静雄

外一名

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し金六〇〇万円及びこれに対する昭和四六年一〇月八日から支払ずみまで年一割五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決の第二、三項は仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

控訴人がその主張の各日時に当時被控訴会社の代表取締役であつた相馬雄二に対し二回にわたつて計金六〇〇万円を貸付金として交付したことについては、本件弁論の全趣旨により当事者間に争いがないものと認められる。

<証拠>によれば、次のとおりの事実が認められる。

控訴人は相馬雄二とは昭和二八年以来旭電化工業株式会社における同僚として交際をしてきた。相馬雄二はその祖父母が創業し、その父が社長であつた被控訴会社の経営に携わるための修業のため旭電化工業株式会社に勤務していたものであるが、昭和三二年被控訴会社の社長であつた父が死亡したため被控訴会社の代表取締役となり、同四四年年には代表取締役社長となつた。

昭和四五年三月ころ被控訴会社代表取締役社長であつた相馬雄二は、控訴人を被控訴会社に呼び、レストランチエーン設置の構想をもつているが、反対する役員もあるので、マーケツトリサーチ、目的店舗の調査、下交渉等の事前工作のための資金が必要である旨述べてその調達を要請した。これを受けた控訴人は、相馬雄二を自宅に呼んで、昭和四五年三月一一日金四〇〇万円を、同年五月八日金二〇〇万円をいずれも利息日歩五銭返済期限同年七月一一日と定めて交付貸付けた。右借入れにつき、相馬雄二は、担保の趣旨で右金額に相応する右相馬個人の約束手形を控訴人あてに振出し交付し、また、借入れの際、被控訴会社代表取締役なる肩書を表示した同人の名刺(甲第一、第二号証)に右金員借用の旨及び借用日を記載した借用書を控訴人に交付した。なお、控訴人は、本件以外にも、昭和四四年相馬雄二が被控訴会社代表取締役であつた当時金一〇〇万円及び金五三〇万円を、また同年同人が代表取締役となつてからも金三五一万四千円を被控訴会社秘書室員あるいは同室長を通じて右相馬に貸付け、その際も本件の場合と同様に右相馬あるいは右秘書室長の名刺をもつて借用書としたことがあるが、右金員はいずれも完済された。

以上のとおり認められる。

右のとおり、本件金銭貸借当時相馬雄二は被控訴会社代表取締役社長であつて、このことを貸主である控訴人は知つており、右相馬は本件借入れに当り右代表資格を明示した借用証を差入れており、かつ、金銭貸借が被控訴会社の営業に関する行為であることは明らかであるから、控訴人と右相馬との間に別段の意思表示がないかぎり、被控訴会社が本件金銭貸借の当事者であるというべきである。そして、控訴人と右相馬との間に本件金銭貸借の当事者が右相馬個人であるとする意思表示があつたものと認めるに足りる証拠はない。前記認定のとおり、右相馬が控訴人に対し本件借入れの必要な理由としてレストランチエーン設置構想に対し被控訴会社の一部の役員の反対があると述べていること、形式のととのつた借用書が作成されなかつたこと、控訴人は右相馬の私的な旧知で金員の授受も控訴人の自宅で行われたこと、本件貸借に当り右相馬個人振出の手形が担保とされたこと、及び、<証拠>によれば被控訴会社においては金銭の出納は経理部を経由してなされる仕組みであるが本件金員はこれを経由していないものと認められること、これらの事実は未だ控訴人と相馬との間に本件金銭貸借の当事者が右相馬個人であるとする旨の別段の意思表示があつたことを推認するに足りない。

従つて、控訴人は本件金員を被控訴会社に貸付けたものというべきである。

《以下、省略》

(渡辺一雄 宍戸清七 大前和俊)

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